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平成19年度 安全・安心まちづくり県民の集い ふくおか

基調講演 要旨

講師:NHKアナウンサー 堀尾 正明 氏

演題:「ご近所」から福岡を変えよう


<はじめに>

皆様こんにちは。NHKアナウンサーの堀尾です。

まず皆さんに一言お詫び申し上げなければなりません。NHKの職員によるインサイダー取引の不祥事についてです。放送に関わる者が業務上知り得た情報を利用して私腹を肥やすという、あってはならない事件です。皆様誠に申し訳ありませんでした。

しかし、私は全国いろんな所で講演をしておりますが、私が講演する前によくNHKの不祥事が起こり、その度に謝っているんですね。(笑い)でも皆さん、公共放送ですから、受信料だけは払ってくださいね。民放さんはテレビ広告費で成り立っていて、テレビを見なくても広告費として商品の代金に含まれているんです。つまり民放さんにも間接的にお金を払っている、ということなんですね。

 

<情報の距離>

さて、NHKの「難問解決!ご近所の底力」を開始してもう5年になり、いろんなところでムーブメントを起こしています。テレビの影響力というものは大きいですよね、本当にビックリします。そうかと思うと意外と曖昧なメディアでもあるんです。よく見ているようで見ていない。今日も羽田空港で「あー!あなた毎週見てますよ!」と言われましたが、毎週は番組やってないんですよ。また、「あの健康情報がいいですよね、科学的・実証的で。『ためしてガッテン』は見逃せません!」と言われたり。私がいつの間にか立川志の輔さんになっちゃってる。まあ、いちいち否定はしませんけどね。(笑い)

 先日佐世保に行った時、「あー、あなた福岡に居たときからファンだったのよ!サインくださる?」とクチャクチャの紙を渡されました。それにサインしてお渡しすると「へー、あなた堀尾って言うんや・・・。」(笑い)

大ファンでも、名前も知らないんですね。このようにテレビというのは刹那的な媒体なんです。だから、こういう場に来て、私が情報の距離を比較するということは非常に意味のあることなんです。

今までこの5年間で160回くらい放送されています。3年間は毎週放送していました。4年目は一月に1回になり、今はだいたい隔週で、日曜日の午前105分から、和田アキ子さんをレギュラーゲストに招いています。

さて、今日は、皆さんの拍手次第で「ご近所の底力」のVTRを再生するかどうか決めようと思います。

だいたいこの番組を100回くらいは観ている、という方は拍手をどうぞ。(拍手)

次に、だいたい半年に1回真剣に観るか観ないかという方。(大きく拍手)

次に、1年に1〜2回観るくらいだという方。(拍手)

最後に、正直に言ってこの番組を最初から最後まで真剣には観たことがないという方。(拍手)

皆さんどうもありがとうございました。それでは、後ほどVTRを流させていただくことにします。(笑い)

 

 

<「ご近所の底力」で取り上げた事例>

我々の小さい頃は、本当に地域に「ご近所」というものがちゃんとありましたよね。この「ご近所の底力」という番組は、昔日本にあった古き良き地域の結びつきを、いろんなテーマの問題解決に繋げていく、ということが基本的な考え方です。

先ほど県知事や県警本部長の挨拶にもありましたが、全国的にはだいたい5年前をピークに犯罪が減り続けています。そして我々の番組もちょうど5年前に始まっており、この傾向に大きく影響を与えていると自負しています。

例えば番組でパトロールが非常に効果がある、と紹介しました。6年前、東京都内には200しかなかったパトロールのグループが、今3,300に増えているといいます。これは副知事の竹花さんという方(後の警察庁生活安全局長)がこの番組のコンセプトに賛同し、都政に取り入れていただいた結果です。このように我々は5年間ヒントを出し続けてきました。テーマも、防犯に限らず防災、若者問題、落書き、高齢化問題、食品問題など本当にいろんなテーマに取り組んできました。そこで一番言えることは、人々が力を合わせて何かに取り組むことによって、一人の力が足し算ではなく掛け算になっていく、ということです。もちろん福岡では「のぼせもん」と言われる、地域のリーダーの存在も不可欠ですが、みんなが力を合わせて取り組むことで大きな力が発揮できる、ということはこの5年間身に染みて分かってきたところです。

 

<変化した日本人の暮らし>

私は日本が高度経済成長の兆しを見せ始める昭和30年に群馬県の高崎という街で生まれました。父は鉱山師で全国を廻っており、母は近所の工場でパートをしながら私を育ててくれました。長屋の借家暮らしでしたが、まさにそこは「ご近所の底力」の世界でした。鍵っ子で、毎日5円玉を小遣いにもらい、近所の駄菓子屋に寄るのが楽しみでしたが、合成着色料をたくさん使った駄菓子を買って自宅に帰ると、合計7人いましたが、入れ替わりで近所のおばさんが待っていて、目の前で買ってきた駄菓子を捨てられてしまいます。母が近所のおばさんたちに私の面倒を見てくれるよう頼んでくれていたのですが、私にとっては母親が8人いるようなものです。運動会の時など8人の母親たちが一斉に応援してくれました。このように、私は「ご近所」に育てられたのですね。

ある日、母の仕事が休みで、自宅にお巡りさんがやってきて母と談笑していました。お巡りさんは「おい、正明。将来警察官になったらこの拳銃が撃てるんだぞ。」と拳銃を見せてくれ、当時「ロー・ハイド」というテレビ番組に憧れていた私は目を輝かせました。このように、当時はいつも町内を警察のおじちゃんが見廻ってくれているという印象で、ゴミの問題、喧嘩の仲裁、ドブさらいまで、なにかあれば何でも相談していたような気がします。本当に一人のお巡りさんが街を守ってくれていたのです。

ただ、私の学校の成績や隣の家に冷蔵庫が入ったなど、町内の情報はみんな全て知られてしまいます。一軒の家にテレビが入ると2030人が集まって観ていました。そして、その頃テレビで大量に流れていたのは、広いマイホームや欧米の個人主義を重んじた文化でした。みんなご近所付き合いの中で暮らしてはいましたが、本当はいろんなしがらみが嫌でした。自分を尊重してくれる空間やプライバシーが欲しかったのです。

そして、日本人は一戸建やアパートに憧れ、昭和40年代から50年代にかけて自分たちの空間を確保するため一所懸命に働き、高度経済成長を生み出して見事に成功しました。しかし、同時にしがらみは無くなりましたが、繋がりはプッツリ切れてしまいました。閉ざされた空間に住み、隣に誰が住んでいるかさえ分からないのがここ20年間の日本の状況です。

でも、諸問題は多様化していて、犯罪についても低年齢化、外国人による犯罪、暴力団の抗争多発など多様化する傾向です。

住民の要望も、昔はインフラの整備、例えば公民館が欲しい、橋が必要だ、道路整備など地域でまとまっていたものでした。しかし現在ではある程度それらが整い、こちらではゴミ問題、ここでは犯罪、ここではお年寄りの問題、ここでは子供の問題など住民の要望も多様化しています。これらの問題を解決しようとしても、地域の繋がりが無くなってしまっているので一致団結できない。そこで行政や警察に頼もうと思っても、彼らは今は非常に忙しくて手が回らなくなっています。

今回このような催しを行政・自治体が主催するということは珍しいことだと思います。5年前、私が講演に出かけていた頃はほとんどが住民主導でしたので、ある意味で行政の意識が変わってきたのかなという印象です。

行政も財政が厳しく、また住民の要望も多様化しており、なかなか隅々まで手が回らなくなってきている現在、地域住民自らこれらの問題に取り組む事が大事である、と行政も気づき始めているんですね。

以前は空き巣・強盗・引ったくりなど犯罪の取り締まりは警察の仕事だったんです、だって我々は税金を払っているんですから。でも我々自身でやらなければならなくなっている。しかし、地域住民が防犯や防災などあるひとつのテーマに一致団結して取り組むことによって、新しいコミュニティが生まれ、違う形でのパワーが発揮されています。このような事例を取り上げて紹介することが「ご近所の底力」のコンセプトなんです。

 

<「ご近所の底力」の番組構成>

この番組は全体が43分で、半分がVTR、半分がスタジオで構成されます。スタジオには、あることで困っている「お困りご近所」の皆さんに来てもらい、VTRでは同じことで困っている地域で、既にその問題に取り組み、解決に向けて動き出している地域をいろんな方法で2から3つ見つけ出し、リポーターによる取材を行います。そしてそのVTRをスタジオで流し、それをヒントにしてもらって「お困りご近所」が動き出す、という構成です。そしてこの番組の特徴は、一回の出演にとどまらず、問題が解決するまで追跡するという新しい形の視聴者参加番組ということです。私はこれまでいろんな番組を担当してきましたが、この番組ほど直接コミュニティに役に立っているものはないのでは、と実感しています。

さて、これから観ていただくVTR20035月に放送された「ご近所の底力」の「空き巣編」です。私も学生時代に空き巣に入られた経験がありますが、いつまでも嫌な気持ちが残る、とても不愉快なものです。

この番組は、JR阿佐ヶ谷駅周辺に位置する東京都杉並区馬橋地区の住民の皆さんにご出演いただいたものです。古くからの住民と新しく移り住んできた学生さんなどの住民が入り混じっている所です。道路は入り組んでいて犯罪者が身を隠しやすい構造です。地区は800世帯ですが、5年前までは過去20年毎年100件もの空き巣の届出がありました。3日に1回はこの地区で空き巣が発生している計算です。それまで自主パトロールなどを行って対策をとってきましたが、一向に効果がないということで、「ご近所の底力」が開始される時に「是非空き巣をテーマに取り上げてくれ」と申し出がありました。そこで、全国から空き巣対策に効果を上げている地区を探し出し、取材させてもらいました。

ひとつは東京都世田谷区の例です。昼間に派手な衣装を着た、塾講師や空手道場講師など、地区住民以外の人たちによる防犯パトロールが効果を上げた例でした。

もうひとつは、30年前にできた神戸市北須磨区にある24,000人の大変大きな団地です。住民が高齢化し、また交番がないことから空き巣が多発して困っていて、自治会で挨拶運動を始めたところ犯罪が激減したということです。

3つ目は愛知県の春日井市です。もともと行政・警察・住民が一体となって防犯対策には力を入れていたところですが、やはり空き巣が増加傾向でした。そこで、10年間刑務所に入所していた元空き巣の男性に話を聞こうということで、犯罪発生を減らしました。ただ体験談を聞くだけではなく、実際に街を歩いてフィールドワークを行い、空き巣を撲滅させました。

 

「お困りご近所」の東京都杉並区馬橋地区の皆さんは、この番組をきっかけとして、番組で紹介した手法で自分たちなりに防犯活動に取り組み、その結果、これまで20年間発生し続けていた空き巣が、翌年は全く届出がなくなりました。そう奇抜なことをしたわけでもなく、愚直に番組で取材した3地区の妙案を取り入れた活動を始めました。今までバラバラだったコミュニティをひとつにまとめて、若い世代を取り入れ、まめに毎日毎日パトロールを行った結果なのです。石原都知事はこの地区を特別表彰してくれました。

それでは、しばらくVTRをご覧ください。

 

VTR 20035月放送「難問解決!ご近所の底力『空き巣編』」(16分)

 

皆さんいかがでしたでしょうか。今のVTRに出ていた地域の方3人は、今空き巣対策の講演で全国を廻っておられるそうです。「お困りご近所」として出演していたのに、講演する側になってしまいました。(笑い)

彼らは、お盆と正月以外はどんな悪天候でも、毎日パトロールを欠かさないそうで、お陰で警視総監賞をもらったそうです。この地区はNHKのある渋谷からも近いので、私も個人的に時々様子を見に行ってましたが、本当に街の雰囲気が変わりました。若い人たちが外に出てポスターを貼ってみたり、バザーに参加したり、子供会も餅つきをしてみたり、9月には防災の活動と、様々な活動が盛んになっていきました。空き巣対策を始めたグループが核となって走りはじめ、その後いろんな分野へ地域の活動が広がっていったんですね。

 

<活動の継続>

こういう地域には強いリーダーシップを持って活動を引っ張っていく方がいます。活動を初めても頓挫してしまう所と、うまく継続していく所の違いは、やはりリーダーの存在の違いだと思います。そしてこの源は、何か「解決したい」という志を常に持ち続けていることです。役所に相談しても「規則だから」と相手にしてもらえないなど、壁にぶつかっても何か他の方法を探していくという強い志を持った方の存在が大きい。それと、若い人達にも参加してもらうこと。また、無関心な人達にも「私たちはこんな活動をしています。もし時間が空いたら一緒に活動してみませんか?」という具合に情報を公開する。参加してくれなくても文句は言わない、しかしいつでも門戸は開けておく、ということです。

<情報収集・発信>

それから、ゴミ問題にしても同様ですが、「自分たちの街の弱点」をよく知るということが大事です。例えば、金沢市役所の若い職員は、「今の若者は・・・」と非難するだけではなく、若者がなぜそういう行動を取るのかという事をよく考え、若者はゴミ出しルールをよく知らないということに気がつきました。そこで大学生に呼びかけてe-メールで登録してもらい、ゴミ出しの日を知らせると、本当にキチンとゴミを出すようになったということです。これは今どきのツールをうまく使った「ご近所の底力」と言えます。嘆いてばかりではなく、どこに原因があるのか見極め、その原因をどう克服していくかを考えていくことが問題の解決に繋がります。

そして、必ずヒントはどこかにある。日本全国を探せば必ず前例がありますし、もし国内になくても海外にはあるものです。インターネットを利用して探してみて下さい。

一方、自分たちの街の回覧板をホームページで公開しているところもあります。空き巣の発生状況などを載せて、例えば海外旅行先でも自分たちの街の様子が分かるという具合です。

人間は、情報の距離から遠ければ遠いほど無関心になりがちです。テレビも遠いメディアだと思います。「ご近所の底力」を観て、「本当に大変なんだなぁ」と思っても次の日には忘れています。テレビで「オレオレ詐欺」のニュースを観ても、「自分は引っかかるわけないし、関係ない」と思う。でも、そう思う人ほど引っかかりやすいんです。何故かというと、手口が凄く進化していて、マスコミでも報道されないような新手がどんどん出てくる。

そこで、この対策として「ご近所の底力」をお話しますと、お年寄りの電話の横に新しい手口のパターンやその対処法を書いて貼っておくという例があります。

また、名古屋市の例では、退職した元サラリーマン達が、シロアリ駆除の被害についての相談窓口を運営するNPO法人を立ち上げ、地域の皆さんに役立っています。別に行政に頼っているわけではなく「ご近所」で問題を解決しているということです。

 

<行政・警察との付き合い方>

このように、行政や警察に頼るばかりではなく、地域にいろんな仕組みを作って、まず自分たちの力で問題に当たる。このようなシステムがあると、自分たちが安心できますね。でも、最終的には、ノウハウやお金を持っている自治体や警察に頼らない手はないんです。ただ、手を借りるポイントは役所の中に「この人は本当に我が街のことに関心を持ち、パイプ役になってくれそうだ」という人を見つけることです。役所といっても実際は、田中係長、鈴木部長、あるいは○○課長代理それぞれが地域と繋がっていて、これらの人達が持っている情報、例えば防災の道具など、結構自治体が無料で援助してくれるシステムはあるものです。これは税金を支払っている私たちが利用する権利があるのですから、使わない手はない。

まず住民が主導で動いて、後ろ盾として自治体や警察の協力を得る、という形のまちづくりが必要になっていくのではないかと思います。

 

<住民運動の成功例>

住民運動は岩をも動かせるものです。

和歌山県で私鉄が廃止になる際、地域住民が立ち上がって全国からこの14kmの路線を運行してくれる会社をコンペで募集しました。その結果、岡山の会社が手を挙げ、県や市の財政的な補填もありましたが、この路線を引き継いでくれることになりました。

ゴミの問題でもこういう例があります。全国的にゴミは朝出すものとなっているようですが、「一日が終わった夜にゴミを出すべき」という住民運動により行政が動き、千葉県船橋市では夜ゴミを収集するように変わりました。昼間活動するカラスの被害もなくなったそうです。

こうやって住民が動くと、どんどん世の中のシステムが変わります。「決まりは決まり」「前例がない」という考えはこれからの住民運動から忘れてください。本当に我々が何か仕掛けていけば、条例や法律さえも変えられる世の中なのです。

 

<最後に>

今日は、会場に様々な団体の皆さんによる発表ブースが設けられています。ひとつひとつじっくり見ていくと、本当に普段の皆さんの活動の参考になると思います。そして、日曜日の午前105分からの「ご近所の底力」もよろしくお願いします。ご静聴ありがとうございました。



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